内田樹氏「効率重視の世に金より大切なもの飽きるほど訴えよ」朝日新聞2014.10.21

最近の新聞から心に残った言葉…内田樹氏インタビュー(朝日新聞2014.10.21)より

「カジノで考える民主主義」

「武器輸出も原発再稼働もカジノも『金が儲かるなら、他のことはどうでもいい』という世論の形成にあずかったメディアにも責任の一端があります。メディアはなぜ『金より大切なものがある』とはっきり言わないのか。国土の保全や国民の健康や人権は金より大切だと、はっきりアナウンスしてこなかったのはメディアの責任です」

ー理想を高らかにうたうのは大切だと思いますが、現実的な議論をすることが、成熟した大人の態度と言えるんじゃないですか。

「それのどこが『大人の態度』なんです?人間は理想を掲げ、現実と理想を折り合わせることで集団と統合してきた。到達すべき理想がなければ現実をどう設計したらいいかわかるはずがない。それを何ですか?あなたはいまここにある現実がすべてであり、いま金を持っている人間、いま権力を持っている人間が『現実的な人間』であり、いま金のない人間、権力のない人間は現実の理解に失敗しているせいでそうなっているのだから、黙って彼らに従うべきだと、そう言うのですか」

ー私たちは政治とどう向き合ったらいいのでしょう。

「民主制のもとでは、失政は誰のせいにもできません。民主制より金が大事という判断を下して安倍政権を支持した人たちは、その責任をとるほかない。もちろん、どれほど安倍政権が失政を重ねても、支持者は『反政府的な勢力』が安倍さんのめざしていた『正しい政策』の実現を妨害したから、こんなことになった。責任は妨害した連中にあるというような言い訳を用意することでしょう。そんな人たちに理屈を言って聞かせるのはほとんど徒労ですけれど、それでも『金より大切なものがある。それは民の安寧である』ということは、飽きるほど言い続ける必要があります」